科学研究費補助金 基盤(c)「認知の左右差における生物学的要因と文化的要因の相互作用」(2012-2014年度 研究課題番号:24530923)
概要
本研究では,3カ国にまたがり認知や行動の左右差について文化比較を実施しました。特に大脳半球機能差に起因する認知や行動の左右差に焦点をあて,文化的要因と大脳半球機能に由来する生物学的要因の相互作用について検討しました。
背景

読みの習慣は人間の行動や認知にさまざまな影響を与えます。例えば,英語のようには左から右に読む習慣のある言語を話すひとは,左から右にものを見がちです。一方,右から左に読むヘブライ語やアラビア語を話すひとではそれが逆に(あるいは弱く)なります。ただし,このような左右の違いは,脳に起因する視覚情報処理の特性も影響を与えます。ですから,読みの習慣のような文化的な要因と脳機能のような生物学的要因の影響,そしてそれらの相互作用を慎重に検討しなくてはなりません。
われわれはこれまでの研究で,複数の読みの習慣をもつ日本語話者の特性を利用して,認知の左右差における文化的影響と生物学的影響を調べてきました。例えばIshii, Okubo, Nicholls and Imai (2011)の研究において,日本語話者は課題や目的によって,左右差の方向性が変化することを示しました。一貫した左右差を示す英語話者とは明確な違いがあらわれました。日本語話者の結果は,認知の左右差が文化的な要因と生物学的要因の相互作用によって決定されることを示しています。これらの結果は,文化的な要因を重視する研究者,生物学的な要因を重視する研究者の双方にとって,問題の枠組みを再検討する要因となりました。
関連するわれわれの研究
- Ishii, Y., Okubo, M., Nicholls, M. E. R., & Imai, H. (2011). Lateral biases and reading direction: A dissociation between aesthetic preference and line bisection. Brain and Cognition, 75, 242-247.
- Okubo, M., & Nicholls, M. E. R. (2006). A stimulus-dependent dissociation between the cerebral hemispheres under free-viewing conditions. Experimental Brain Research, 172, 29-56.
- Nicholls, M. E. R., Orr, C. A., Okubo, M. & Loftus, A. (2006). Satisfaction guaranteed: The effect of spatial biases on Likert scales. Psychological Science, 17, 1027-1028.
代表的な成果
利き手測定方法の開発

ヒトのおよそ90%は右利きです。この圧倒的な右利きの比率は,利き手がなんらかの生物学的要因によって決定されることを示しています。しかしながら,わずかながら文化的要因も影響を与えます。例えば,中国語圏では右利き率が98%になることがあります。また,ヨーロッパ圏においても100年前には左利きの比率は現在よりもずっと少なかったことが知られています。これは左利きを矯正する文化の存在を暗示しています。
利き手は,脳の構造の違いと相関するため神経科学・神経心理学的研究では必ず測定がなされます。また,神経心理学的な障害に対する臨床場面でも重要な情報となります。しかしながら,本邦では信頼性と妥当性を充分に検討された利き手の測定法が確立していませんでした。日本人を対象として作成された測定方法はあったのですが,文化比較で使うことが難しく,国際的な認知度も高くありませんでした。そこで,われわれは,信頼性と妥当性を備え,複数言語で同一項目を測定できる利き手の測定法を開発しました。名前を日本語版フランダース利き手テストと呼びます。このテストはオーストラリアのフリンダース大学Mike Nicholls教授と共同で行ったもので,すでに英語,フランス語,ドイツ語,イタリア語,日本語,中国語に翻訳され,文化比較が可能な利き手測定法となっています。
この測定法をつかい,オーストラリアと日本の比較を行ったところ,右利きと左利きの比率に大きな違いはないものの,両利きの比率に差があることがわかりました。具体的には日本では両利きがオーストラリアより少なくなることが示されました。これは日本で,右利きへの矯正がオーストラリアよりも多く行われることを示唆しています。
なお,この利き手測定法の開発をあつかったわれわれの学会発表に対して,日本心理学会より学術大会優秀発表賞を贈られました。
関連url: http://www.psych.or.jp/prize/conf.html
関連するわれわれの研究
- 大久保街亜・鈴木玄 (2014). 日本語版FLANDERS利き手テスト:信頼性と妥当性の検討.心理学研究,85, 474−481.
注意の左右差

「森を見る東洋人,木を見る西洋人」という書籍が出版されました。これは周囲を気にしがちな東アジアのひとたちと,そうではないアメリカ・カナダのひとたちをうまく言い表したタイトルです。わたしたちは,このような傾向が注意の左右差にも影響をあたえる可能性を検討しました。日本人が周囲の影響を受け,左右差のパタンが変化するのに対し,オーストラリア人ではそのようなパターンがほとんど見られませんでした。この結果は,注意の左右差にも,周囲を気にする東洋人の特性と気にしない西洋人の特性が影響することを示しています。
関連するわれわれの研究
- Okubo, M. (2012). Leftward attentional biases in Framed-line Test among East Asians. The International Neuropsychological Society mid-year meeting in Norway 2012 (Radisson Blu Scandinavia Hotel, Oslo, Norway)
顔の評価における生物学的要因と文化的要因

顔があたえる信頼感や魅力について,進化心理学的な予測が,文化によって影響されるか検討をおこないました。裏切り者検出や遺伝子の複製など進化論における適応的観点から導かれる予測は,文化にかかわらず頑健に支持されることがわかりました。
関連するわれわれの研究
- Okubo, M., Kobayashi, A., & Ishikawa, K. (2012). A fake smile thwarts cheater detection. Journal of Nonverbal Behavior, 36, 217-225.
- Okubo, M., Ishikawa, K., & Kobayashi, A. (2013). No trust on the left side: Hemifacial asymmetries for trustworthiness and emotional expressions. Brain and Cognition, 82, 181-186.
これまで受けた科学研究費による助成
- 認知の左右差における生物学的要因と文化的要因の相互作用(研究課題番号:24530923)
科学研究費 補助金 基盤(C)
研究期間: 2012年4月 - 2015年3月 代表者: 大久保 街亜 - 空間関係処理における大脳半球間相互作用:空間解像度と機能の分割と統合(研究課題番号:20730482)
科学研究費補助金 若手研究(B)
研究期間: 2008年 - 2010年 代表者: 大久保街亜 - 時間情報処理における大脳半球左右差:トレードオフ仮説の検討(研究課題番号:18830072)
科学研究費補助金 若手研究(スタートアップ)
研究期間: 2006年 - 2007年 代表者: 大久保街亜 - 空間関係処理における大脳半球機能:低空間周波数の役割(研究課題番号:02J10107)
科学研究費補助金 特別研究員奨励費
研究期間: 2002年 - 2004年 代表者: 大久保街亜 - 心的イメージ生成における低次視覚系処理の関与の有無についての実験心理学的研究(研究課題番号:98J05093)
科学研究費補助金 特別研究員奨励費
研究期間: 1998年 - 2000年 代表者: 大久保街亜

